2013年7月26日金曜日

「お手紙」その1

「お手紙」その1 謎を追究する面白さを

「お手紙」は謎の多い物語である。この物語はちょっと変わった始まり方をしている。
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がまくんは、げんかんの前に、すわっていました。
かえるくんがやって来て、言いました。
「どうしたんだい、がまがえるくん。きみ、かなしそうだね。」
「うん、そうなんだ。」
がまくんが言いました。
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★これは、「お手紙」の冒頭部分の一節である。
 まず「がまくんは、げんかんの前に、すわっていました。」からして謎である。玄関の前に座るということは、あまり見かけない行為である。なぜわざわざ玄関の前に、座っていたのか?
しかも、「悲しそうな顔」をしているのである。やってきたかえるくんはあきらかに知り合い、いや友達。普通なら、「おはよう・こんにちは」とか「やあ」とかお互い挨拶をかけ合いそうなものである。しかし、やってきたかえるくんはいきなり「どうしたんだい」と問いかけている。それほど悲しそうな顔=雰囲気を、がまくんは醸し出していたと考えられる。言いかえると、がま君は、誰にでもわかりやすく、もっと言うと「これみよがし」に自分の悲しさを訴えていたのである。
「うん、そうなんだ。」かえるくんの問いかけにがまくんは答える。やはり誰かに聞いて欲しかったのであろう、即答しているようにみえる。普通なら無言の場面である。このやりとりから読めるがまくんの人物像は以下のようなものであろう。

幼い。(がまくんの見え見えの雰囲気は、いかにも幼い子どもがとりそうな行為である。)
それは「甘えん坊」だとも言える。
あるいは、わがまま。(これは、年齢的なものなのか、性格的なものなのかは判別できない)
そうとう深刻な出来事ががまくんの身にふりかかった。(謎。読者を引き込むしかけになっている)

この他、いくつかの疑問や謎もある。
果たしてがまくんは、かえるくんが視界に入る前から悲しそうな顔をしていたのか?
もしそうだったとしたら、他の人はがまくんに声をかけたりしなかったのか?それはなぜか?
かえるくんが視界に入ったので、悲しそうな顔をしたとすると、それはなぜか?

もし③であるとすると、そこからがまくんの人物像や二人の関係が読めてくることになる。
また、これは絵本でる。絵から読めるがまくんの人物像もある。また「がまがえる」であるから、あまり動かない、動きが遅いところから、のっそりした感じ、ぼーっとした感じなどがわかる。(くわしくは省略)

★さて冒頭部分をさらに読み進めてみよう
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「今、一日のうちのかなしい時なんだ。つまり、お手紙をまつ時間なんだ。そうなると、いつもぼく、とてもふしあわせな気もちになるんだよ。」
「そりゃ、どういうわけ。」
かえるくんがたずねました。
「だって、ぼく、お手紙、もらったことないんだもの。」
がまくんが言いました。
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 なんとも理屈っぽい言い回しである。また「かなしい時なんだ。」「つまり」「時間なんだ。」「そうなると」などという言い方を、話し方を、がま君は普段からしているのだろうか?
このセリフから、がまくんは、理屈っぽく、少し変わった子(子だとして)だと言えそうである。また、「ふしあわせな気もち」からは、そういう言葉を使うことへのあこがれというか、ちょっと背伸びした感じも受ける。普通は、友達との会話では使わない言葉であることは間違いない。それは「もらったことないんだもの。」という言い方の幼さかと合わせて考えるといっそう浮き立ってくるように思う。また、この言い方からは、少しひがみっぽい感じがする。

さて、続きを進めよう。
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「いちどもかい。」
かえるくんがたずねました。
「ああ。いちども。」
がまくんが言いました。
だれも、ぼくにお手紙なんかくれたことがないんだ。毎日、ぼくのゆうびんうけは、空っぽさ。お手紙をまっているときがかなしいのは、そのためなのさ。
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 なんと、「だれも、ぼくにお手紙なんかくれたことがないん」ことが悲しさの原因だということである。読み手からすると、少しばかり大げさすぎやしないかという感じもする。スネている感じである。手紙をもらったことがないというだけで、そんなに不幸せな気持ちになるのは、少し大げさではないかという違和感である。
ここも謎だらけである。
なぜ手紙がこないことがそんなに悲しいのか?(なぜそんなにお手紙が欲しいのか?)
なぜ自分から出そうとは思わなかったのか?出さなかったのか?あるいは出したけど返事がなかったのか?
そもそも、誰から、どんな手紙がくると思っているのか?きて欲しいのか?
この読み手に湧く「違和感」「謎」は、この物語ではとても重要な読みへとつながるのではないかと感じる。
これらはどう考えればいいのか?そして、そこから読める人物像は、、、、。

 それにしても、がま君にとっては、この悲しさは、がまくんにとってそうとうな悲しさのようでる。それは「ああ、いちども。」「お手紙なんか」「空っぽさ」などの拗ねたような言い方から容易に想像できる。
また、がま君は、そうとう甘えん坊でさみしがりやなんだろうと感じる。しかし、どこか憎めない感じ、助けてあげたくなる感じも私には感じられる。

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 ふたりとも、かなしい気分で、げんかんの前にこしを下ろしていました。
すると、かえるくんが言いました。
「ぼく、もう家へ帰らなくっちゃ、がまくん。しなくちゃいけないことが、あるんだ。」
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そんながまくんに、かえるくんは同情している。かえるくんは、いいやつなのだろう。
「いちどもかい」と
かえるくんが悲しい気分になったのは
がまくんにお手紙がこないことなのか?
お手紙がこなくて悲しんでいるがまくんのことを思ってなのか?
そんながま君の気持ちを知らなかったこと、気づいてやれなかったことなのか?
自分が、がま君に一度も手紙を出さなかった出したことがなかったことへの後悔からなのか?
の、どれなのだろうか?いくつかの思いが重なっているのだろう。
かえるくんは、玄関に座っている悲しそうな顔のがまくんを見てすぐに「どうしたんだい。」と心配している。そして、その理由を聞きながら、かえるくんもまた「かなしい気分」になっていく。そんな友達思いのかえるくんであるが、この場面では、けっして励まそうとはしていない。なぜなのだろうか?「いちどもかい。」と尋ねているところから、かえるくんはお手紙をもらったことがあったのであろう。だからなのかもしれない。あるいはもらったとこがなかったとして、自分はそれを考えたことも悲しんだこともなかったのであろう。
そう考えると上記した③④の思いがあったことは確実だと言えそうである。あるいは、「いちどもかい」というかえるくんの何気ない言葉が、さらにがま君を傷つけたことも気づいていたのかもしれない、、、。

そのかえるくんは、この場面での最後のセリフ
「ぼく、もう家へ帰らなくっちゃ、がまくん。しなくちゃいけないことが、あるんだ。」
と言う。まず前半を普通の言い方に直すと「がまくん、ぼく、もう家へ帰らなくっちゃ。」である。比較すると、急に思いついたような感じである。そして、「どうしても帰りたい、帰らなければならない」ことを思いだしたという感じがする。それは「しなくちゃならないこと」があるからとなる。「することがある」あるいは「したいことがある」と比較すると、「どうしても、なにがなんでも」といった思いが込められている。後で出てくるのだが、かえるくんは、家へ帰ってがまくんにお手紙を書こうと思いついたのである。だから「どうしても」であり「なにがなんでも」なのだろう。ここから物語は、結末へ向けて展開していくことになる。
★ここからわかるかえるくんの人物像は、
人がいい。優しい。
思いついたらじっとしていられない性格。
がまくんのことが大好き。友達おもい。
といった感じであろう。


※1学期にサークルで提案したものを元に、みんなで検討したこと、そして跡上先生のアドバイスを受け、もう一度「お手紙」について考えみたいと思いました。そこで、これまでとは書き方を変えて、少しずつブログにアップしていきたいと思います。

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